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少し長い釣りの話と名なしの茶トラのこと

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback

深夜の小さな漁港。
陸側に獲れた魚を選別するのだろうコンクリートの細長い建物。
建物の海側は壁が無く大きく開かれている。
建物の前は数メートルの通路になっていて等間隔に黄色く塗られた杭が並んでいる。
幾つかの杭には小さな漁船が舫ってあり、時折風に煽られた船体が埠頭の緩衝材に擦られ、ぎぃという音をたてていた。

月の無い夜、大潮。
風もほとんど無くベタ凪の海面は対岸の埠頭の照明をゆらゆらと反射させている。

陸側から海に向かって伸びている埠頭の根本辺りに立った。
海面に漂う発泡スチロール片の動きを目で追う。
波に煽られながらゆっくりと沖に向かって動いているようだ。

腕時計を覗き込む。
暗闇にデジタル表示がぼうっと浮かび上がる。

下げ潮が利きはじめた時刻。
秋風に吹かれて少し冷えた指先を口元に寄せふっと息をかける。

竿先から垂らした糸の先には10センチ程のルアーが結ばれている。
竿を軽く振り上げ糸に掛けた左人差し指の先にルアーの重みを感じたところですばやく竿を前方に振り下ろし糸から指を離す。

暗闇にかすかにしゅんと音が響いてルアーが飛ぶ。
ルアーは緩やかな弧を描いて水面に落ちた。
波の無い水面に小さな波紋が広がる。

1…2…3…、頭の中で秒数を数えながら手元から水面まで繋がっている糸の出るのを見つめる。
10秒程して糸はふっと張りを失う。
ルアーが海底に着いたサインだ。

この秒数がすなわち底までの深さ。
10秒で着底する水深なら着水後5秒でルアーは中層に位置する事になる。
10秒で釣れないなら8秒で…と層を替え、場所を変えていくのがこの釣りの基本だ。

糸のたるみをすばやく巻き取りルアーを海底から浮かせる様に竿先をあおる。
同時に右手はリールをゆっくりと巻き取り始める。

ここからは経験と想像の世界だ。
海底の形状とルアーの姿勢を頭に描きながらリールを巻き、時に竿を微妙に動かす。
時折伝わる海底や海草にルアー触れる震動と魚のアタリを見極めるために指先に神経を集中する。
巻き取り終わるとまた投げ、層と場所、付ける動きを変える。

それは、何度かキャストを繰り返した頃だった。
トン…トン…。
竿先ではなくはいているジーンズのすそのあたりにかすかに何かが触れている。
次の瞬間、にゃぁとかすかな声。
指先に集中していた全神経が突然の思わぬ刺激に強く反応した。
全身に鳥肌が這い上がる。
身体は埠頭から落ちそうだ。
恐る恐る自分の足元を見る。

そこに見えたのは小さな茶トラの子猫がジーンズのすそを登ってくるところだった。



これがこの茶トラとのはじめての出会い。
茶トラは俺があげた悲鳴に驚き、すぐに逃げ出していった。
その後も遠くから俺を見ているだけで近づいてくることは無かった。
そして俺が放った小魚を咥えると急ぎ足で暗がりに消えていった。

一年後の秋、その茶トラと俺は再び同じ埠頭で再会する事になる。
茶トラは身体もできあがり、顔もふてぶてしくなった。
何よりも、釣り人の足に直接這い上がるような無作法なまねはしなくなり、おとなしく魚が釣れるのを待つようになった。
ただし、待つのは「俺の目の前」でだ。



この茶トラはきっと夜釣りのおこぼれやこの港の漁師さんから頂くおすそ分けを糧に、この厳しい日本海の冬を乗り越えてきたのだろう。

顔つきはたくましく、動きも無駄が無く、仕草もどことなくふてぶてしい。
この日は何匹かの小魚を咥えてはねぐらに戻りを繰り返した。
もしかしたらこの茶トラも親になったのかも知れない。

Comment

chibimagari says... ""
茶トラは、元気に冬を越しているかな?
冬の海は厳しいから、どこか別の所で 春を待っているんだろうか?
そう思うと、人間がしてあげられる事って少ないんだな~って悲しくなっちゃう。
早く暖かくなって、お日様の下で たくさんのお魚食べてお昼寝できる様になるといいな。
ここにも、春を待つ 健気な小さな存在がいるんだね。
2013.03.18 15:26 | URL | #- [edit]
steampump says... "Re: タイトルなし"
1月に港を見に行った時には見ませんでした。
ただ魚の水揚げは年中あるし、
港って漁師小屋や水揚げ施設とかたくさんのスペースや隙間があるので猫には住みやすい場所かなって思います。
あとはそこで働く人との相性なんじゃないかな。
俺の知っている限り、港猫は器量も性格も良い猫が多くって皆に可愛がられていましたよ。
漁師さんも普段命がけの商売なので命に優しい人が多いしね。
また会うのが楽しみな猫でした
2013.03.18 19:22 | URL | #- [edit]

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