スポンサーサイト

Posted by steampump on

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

見上げる猫のこと。

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback

この世の中で一番高いところにあるのはお星さま。
その次に高いのはお日さま。毎日毎日お月さまと追いかけっこ。
そのまた下に雲があって、そこにはいつも風が吹いている。
そして、そのずうっと下に僕らは暮らしているんだ。
お日さまは毎日顔を出して僕らを照らし、僕らを暖めてくれる。
雲は日陰を作り、雨を降らせてのどをうるおしてくれる。
お星さまは毎晩子守唄を歌い、お月さまは僕らのまぶたに砂を撒いてくれる。
こうして僕らはこの星で生きてきたんだよ。



いつの頃からか、猫が空を見上げている姿が好きになった。
どうしてかは分からない。
でも、手の届かないものに向けられた視線の先が知りたくてしかたがないんだ。

駐車場のシロさんはエアコンの室外機の上。
綺麗な白い毛にスポットライトに様にあたった朝の太陽。
シルクのように光沢のあるひげが陽に透けて見える。
狭くジメジメしたこのビルの隙間から見える四角い空をシロさんは何を思って眺めているのか。


横丁の猫耳くんはビルとビルの隙間、新雪が積もった朝の空を見上げる。
薄暗いビルの隙間から空を見ると冬のグレーの空でもまぶしく見えるのかもしれない。


横丁のおにぎりくんもビルの隙間からみえるグレーの冬空を見上げる。
次から次へ降り注ぐ綿雪、冬をはじめて過ごす彼の目にはどういう風に映っているのかな。


横丁のアニキ。
背中に粉雪をのせて見上げる冬の朝の空。
弟達とは違って、アニキは冬もその後に来る春のことも知っている。
絶え間なく振る雪を頼もしい視線で眺めているようにも見える。


独り暮らし時代のJr.。
冬の手前、水たまりが凍り始めた頃、独り空を見上げる。
最近都会に増えだしたカモメが場違いな大声をあげながら空を滑空していく。
孤独と戦う視線の向こうに何があるのかな。


またたび横丁のままたびくん。
秋の横丁で舞い落ちる枯葉を眺めながら、物思いに耽るような表情。
降り積もった枯葉の上に座るまたたびくんは、彼自身が秋になってしまったような。



冬晴れの朝、青空を眺める姉さん。
放射冷却で冷え切った空気、踏み固められた真っ白な雪に凛と立つ。
雪国で暮らすという逃れられない厳しさが彼女を強くしたんだ。


狭いビルの隙間に打ち捨てられた鉄パイプに乗って遊んでいるおにぎりくん。
ふと空を見上げながら大あくび。


おにぎりくんと姉さん。
見守る姉さんの視線がやわらかく優しい。
厳しい冬を肩寄せ合って生きてきた家族が見上げた空。


空を見上げる彼らを探しているときに気づいて驚いた事がある。
それは街猫は空を見上げている写真はすぐに見つかるのに、港猫が空を見上げている写真は一枚も見つからなかったということ。

それはたぶん港猫は水平線の彼方まで見渡せる世界に住んでいるから。
街猫は四角く切り取られた空が彼らに与えられた唯一の果てしない世界だということ。
彼らはこの空の彼方にいったいどんな永遠を見ているのかな。



僕らの星は時々揺れたり、大きな水が流れてきたりするけど、
それでもお星さまやお日さまやお月さまは光り続けて、
風に雲は流れ続けるんだ。
僕らの上にある空だけは変わらない。
昨日も、今日も、きっと明日も変わらない。

スポンサーサイト

まだほんの小さかった頃のおにぎりくんと猫耳くんのこと。

Posted by steampump on   4 comments   0 trackback

こども「そこから何が見えるんだい?」
天使 「素敵な出来事さ」
こども「素敵な出来事ってなんだい?」
天使 「まだ見たことも無いことさ」
こども「見たことが無いのが素敵だなんて、なんで分かるのさ」
天使 「お前が見たことのある事は素敵だったかい?」
こども「そりゃあ素敵な事だってあったさ」
天使 「じゃあ、それの何倍も素敵な事を見たくないかい?」
こども「そりゃあ見てみたいよ」
天使 「じゃあ聞いてばかりいないでここまで飛んでおいでよ」
こども「どうやって飛ぶのさ?」
天使 「あきれたやつだ。お前は自分の背中に生えているのがなんだか知らないのかい?」
こども「僕の背中に何が生えてるってのさ」
天使 「羽根さ。見えないのかい?透明で太陽が透けて見えるほど薄くて軽い羽根さ。誰の背中にも羽根は生えているんだよ。君の友達にも、兄弟にも」
こども「お父さんやお母さんにも?」
天使 「残念ながら大人にはないんだ。その羽根はまだ見ぬものを見るために神様が下さったものさ。だからいろいろなものを見るうちに羽根は少しづつ消えていくんだ。さあ、そんなことはいいからここまで飛んでおいで」
こども「それは無理だよ。僕はまだ小さいもの」
天使 「軽くて小さな子供だから飛べるのさ。さあその羽根を広げて飛んでごらん。そうじゃない、羽ばたくのさ。ほら風が来たぞ。羽根を広げてごらん。息を胸いっぱいに吸い込んで…そらっ!」



その日、俺はおにぎりくんと猫耳くんが、この小さなビルとビルの隙間でピョンピョンと遊んでいるのを眺めていた。
二匹はもう俺なんて眼中にない様子で、子猫にしか分からない言葉と仕草で遊んでいた。



最初、猫耳くんがひらりと発泡スチロールでできた家の上に飛び乗った。
おにぎりくんはその様子を羨ましそうに見上げていた。



「僕もそこに上りたいよ。どうやって登るの」

「どうやってって僕にもわからないよ。ただ登ろうと思って飛び上がったんだ」



「飛び上がるってどうするのさ。そんな高いところに飛び上がることなんてできるかしら」

「そうだ!思い出した!最初はそこに前足を掛けて、その後は…どうするんだっけな?とにかく、えいって伸び上がるんだよ」



「僕にもできるかな?」

「そうだ!そこに前足をかけるんだ。後ろ足はそこに!そうだ!いいぞ!その調子!」



「見えた!箱の上が見えたよ!僕、そこに登れるね」

「さあ、僕の隣においでよ。もう少しだ!そら!」



「ああ、登れた!ああ、登れた!なんて素敵な景色なんだろう。あんなところまで見えるよ」

「今度は一緒にあそこに登ろう。あそこはきっとここより素敵な景色が見えるに違いないよ」



この日、二匹はこのビルとビルの隙間で「初めて二匹で見る風景」に興奮して、狭い箱の上を何度も何度も駆け回ったりしていた。
それは二匹の騒々しい足音にたまりかねたアニキが二匹をたしなめるまで続いたんだ。





その日、こどもは夢を見た。
夢の中でこどもは透明で薄くて太陽が透けるほど軽い羽根を羽ばたかせ、空の上の高い高いところまで登っては、地上近くまできりきり舞いをしながら舞い降りることを幾度となく繰り返した。
それはとても恐ろしくて、とても素敵で、とても愉快な経験だった。
空から見えた景色は素晴らしく、見渡す大地は限りなく続くように見えたし、空はどこまでも高かった。
こどもはそのころにはもう天使が言っていた「素敵な出来事」なんて忘れて羽ばたき続けた。
でも、もうこどもはその「素敵な出来事」が、この見渡す限りの大地と果てしない空の間に数え切れない程あることを分かっていたんだ。
いつか自分がこの大地と空を飛び回る事になることも。

Jr.との出会いのこと。

Posted by steampump on   6 comments   0 trackback

見上げた空は四角く切り取られていた。



この空は人間が生み出した罪の形。
この空は光を遮り、闇を落とす翼の形。
未来を遮り、過去を隠す剣の形。

高く、高く、高く、高く、鋭角に、直角に、直線に…。
人は登り、人は眺める、良い気分になって、世界を見ている気になるんだ。
背中の翼は当の昔に溶けてしまったのにね。



光の中で土煙が上がるのが見えた。
土煙の中でひとつの塊がクルリ、バタリと跳ね回っている。



やがて光の中に見えたのは若い猫。



猫が狙っていたのはこのあたりに住むネズミだろう。
仕留めそこなった若い猫は一部始終を見ていた男に興味を持ったらしい。
ゆっくりと油断無く近づいてきた。



エアコンの室外機の下。
すばやく逃げ込みなかなか出てこない。
どうやらこれがこの猫のねぐららしい。
しばらくして顔を出したのはサバ白の猫だった。



サバ白猫は上半身だけを室外機から出してこちらを見ている。
大方エサをくれる人間かどうかを見定めているのだろう。
街ネコとの出会いはいつもそう。
街ネコは先ず人間を二種類に分類する。
「エサをくれるヤツ」か「エサをくれないヤツ」か。



見定めるがいいさ。
ただ俺はそんなに簡単じゃないぜ。

猫はすばやく体を翻して向いの板の影へ。
若い猫らしく動きが機敏で無駄が無い。

板の陰からこちらを窺う。



板の陰で考え込む。



板の陰からこちらを窺う。



板の影から後ろを警戒する。



板の影からこちらを窺う。



板の陰で考え込む。



板の陰からねぐらに戻ろうか迷う。



さあ、答えは出たかな?
俺はお前さんのおめがねにはかなったのかい?



これがJr.と俺の最初の出会い。
その頃のJr.はこの狭い隙間と、隙間から繋がる複雑なネコ道で暮らしていた。
ネコ道は暗くて、寒くて、さびしいところだったので、Jr.は程なく焼き鳥横丁にある兄弟のもとに引っ越した。
でも、この出会いがあったから今でもJr.と会うと特別な気持ちになるんだ。
独りで暮らしていたヤツの気持ちが俺にも少しはわかるからね。

冬の足跡のこと。

Posted by steampump on   6 comments   0 trackback

猫の足跡はその猫の命の証。
俺はここで生きているんだぜって言う印が猫の足跡。

この足跡はまたたびくんのもの。
大きなしっかりした足跡はこの場所で立ち止まって横丁を眺めていたんだと思う。



またたびくんは主に夏限定の街猫。
冬場はほとんど姿を見ないのでおそらく「半ノラ」生活をしている猫かな。
ヤツとは付き合いも長いので、ここであの何か言いたげな顔をしてボーっと座ってたんだろうな…なんて想像すると少し楽しい。


この大きな足跡の後ろに小さな足跡が続いているのは、たぶん姉さんとおにぎりくんの足跡。



姉さんの足跡はしっかりと付いていて、おにぎりくんの足跡はすり足のようになっている。
姉さんの後を追うように急ぎ足でおにぎりくんが付いていったのかな?
猫としてのキャリアが足跡に出ちゃったんだな。


この足跡はたぶんアニキ。
しっかりと足を揃えて立ち止まった時のもの。



横丁を眺めながらパトロール中の足跡かもしれない。
雪が溶けてアスファルトが半ば見えているのはアニキの熱さのせいかな?



この足跡はわかなないな。
大きさから言ってJr.かな?



カラスの足跡も付いている。
縄張りを荒らすカラスを追い立てたのかもしれない。
ちなみに人間の足跡は俺。


この足跡はたぶん名なしのクロのもの。



高いフェンスを一足飛びに飛び越えて、こちら側の雪山に着地したときの足跡。
自分の背丈の何倍もある雪山を雪煙を上げながら駆け下りるクロはきっと全身真っ白になっていたんだろうなぁ。


この足跡はJr.。
非常階段のステップに片足だけ。



登ろうとしたのか、ステップの隙間から向こうを窺った時のものか。
このときJr.は家族と離れ独りで冬を迎えていた。
エサも少なくさびしい暮らしをしていたのだと思う。
ステップの向こう側で明滅するネオンの明かりをJr.はどんな気持ちで見ていたのかな?


猫の足跡は猫の暮らしの跡、猫の命の証。

ヤツらは今日もこうして生きているんだな。

少し長い釣りの話と名なしの茶トラのこと

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback

深夜の小さな漁港。
陸側に獲れた魚を選別するのだろうコンクリートの細長い建物。
建物の海側は壁が無く大きく開かれている。
建物の前は数メートルの通路になっていて等間隔に黄色く塗られた杭が並んでいる。
幾つかの杭には小さな漁船が舫ってあり、時折風に煽られた船体が埠頭の緩衝材に擦られ、ぎぃという音をたてていた。

月の無い夜、大潮。
風もほとんど無くベタ凪の海面は対岸の埠頭の照明をゆらゆらと反射させている。

陸側から海に向かって伸びている埠頭の根本辺りに立った。
海面に漂う発泡スチロール片の動きを目で追う。
波に煽られながらゆっくりと沖に向かって動いているようだ。

腕時計を覗き込む。
暗闇にデジタル表示がぼうっと浮かび上がる。

下げ潮が利きはじめた時刻。
秋風に吹かれて少し冷えた指先を口元に寄せふっと息をかける。

竿先から垂らした糸の先には10センチ程のルアーが結ばれている。
竿を軽く振り上げ糸に掛けた左人差し指の先にルアーの重みを感じたところですばやく竿を前方に振り下ろし糸から指を離す。

暗闇にかすかにしゅんと音が響いてルアーが飛ぶ。
ルアーは緩やかな弧を描いて水面に落ちた。
波の無い水面に小さな波紋が広がる。

1…2…3…、頭の中で秒数を数えながら手元から水面まで繋がっている糸の出るのを見つめる。
10秒程して糸はふっと張りを失う。
ルアーが海底に着いたサインだ。

この秒数がすなわち底までの深さ。
10秒で着底する水深なら着水後5秒でルアーは中層に位置する事になる。
10秒で釣れないなら8秒で…と層を替え、場所を変えていくのがこの釣りの基本だ。

糸のたるみをすばやく巻き取りルアーを海底から浮かせる様に竿先をあおる。
同時に右手はリールをゆっくりと巻き取り始める。

ここからは経験と想像の世界だ。
海底の形状とルアーの姿勢を頭に描きながらリールを巻き、時に竿を微妙に動かす。
時折伝わる海底や海草にルアー触れる震動と魚のアタリを見極めるために指先に神経を集中する。
巻き取り終わるとまた投げ、層と場所、付ける動きを変える。

それは、何度かキャストを繰り返した頃だった。
トン…トン…。
竿先ではなくはいているジーンズのすそのあたりにかすかに何かが触れている。
次の瞬間、にゃぁとかすかな声。
指先に集中していた全神経が突然の思わぬ刺激に強く反応した。
全身に鳥肌が這い上がる。
身体は埠頭から落ちそうだ。
恐る恐る自分の足元を見る。

そこに見えたのは小さな茶トラの子猫がジーンズのすそを登ってくるところだった。



これがこの茶トラとのはじめての出会い。
茶トラは俺があげた悲鳴に驚き、すぐに逃げ出していった。
その後も遠くから俺を見ているだけで近づいてくることは無かった。
そして俺が放った小魚を咥えると急ぎ足で暗がりに消えていった。

一年後の秋、その茶トラと俺は再び同じ埠頭で再会する事になる。
茶トラは身体もできあがり、顔もふてぶてしくなった。
何よりも、釣り人の足に直接這い上がるような無作法なまねはしなくなり、おとなしく魚が釣れるのを待つようになった。
ただし、待つのは「俺の目の前」でだ。



この茶トラはきっと夜釣りのおこぼれやこの港の漁師さんから頂くおすそ分けを糧に、この厳しい日本海の冬を乗り越えてきたのだろう。

顔つきはたくましく、動きも無駄が無く、仕草もどことなくふてぶてしい。
この日は何匹かの小魚を咥えてはねぐらに戻りを繰り返した。
もしかしたらこの茶トラも親になったのかも知れない。

名なしの港のサビ白のこと。

Posted by steampump on   0 comments   0 trackback

長い冬が終わりを迎えるころになると、夏のねこが恋しくなる。

特に夏の日差しの中でのびのびとしている海辺のねこ。

どういうワケだか、街ネコよりも港ネコの方が圧倒的にのびのびとおおらかで人懐こい。

ここじゃ港の仕事の邪魔さえしなければ、追いまくられることも、お役人が檻をもってやってくることも無いからね。


港ねこたちは潮の加減を知っているのか?それともねことしての本能なのか?魚が釣れだすと何処からとも無くやってきては釣れた魚をねだる。

釣れている釣り師の後ろは港ねこが大勢集まる。

時にはバケツの中の魚を失敬する不届き者もいなくは無いが、そういう事をするのは大抵あの忌々しいカラスくらいなもんか。

ひとしきり釣り人のおこぼれをご相伴に預かると乾いた暖かいアスファルトの上で誰憚ること無くごろり。



釣り人のおこぼれをもらい損ねた海鳥達の視線なんてお構いなしに、いっぱいになったおなかをもてあましてごろごろとやっている。

時折こちらを見ているのは、また魚が釣れだしていないかを確認しているのかも知れない。



夏の乾いたアスファルト。

埠頭に並ぶコンテナから長く影が伸びる。

北国では夏でもこの時間の日陰はひんやりとしている。

海から吹き付ける風が顔に心地よい。

のんびりした時間が流れる。



見ている方が飽きるほどごろごろを繰り返した夕暮れ手前の時間、急にすくっと姿勢良く座りなおす。

あたりの状況を真剣な表情で見回す。

日没が近い。

釣り人の言葉で「夕まずめ」。

夕方は魚も食事の時間だから、釣り人にとっても忙しい時間だ。

おおかたあたりの釣り人が持つ釣竿の先を眺めているのだろう。



周りの海鳥に鋭い視線。

港ねこにとってカモメやウミネコやカラスは強力なライバル。

ライバルへの牽制球も欠かせない仕事だ。



港ねこは腕が良くて、気前の良い釣り人が大好きだ。

視線の先にいたのは、やはり長年潮風にさらされて顔に深い皺が刻まれた老釣り師。

老釣り師は色あせたタオルを薄くなった頭に巻き、竿先を見つめながら短くなった煙草を燻らせている。

時折隣に座った馴染みの釣り師に低い声でなにやら話しかけているが概ね黙って竿先を眺めている。

針にかかった魚を外してはバケツに放り込んでいく仕草は手馴れたものだ。

港ねこは釣り師の腕を良く知っているのだろう。

今日はあの釣り師から晩御飯を頂くつもりなのかもしれない。



遠くから割れたAMラジオの音。

今晩の天気予報がかすかに聞こえる。

どうやら今夜は星が見られそうだ。

さて、俺もねこ達にモテるようにもうひとがんばりするか。

またたびくんのこと。

Posted by steampump on   8 comments   0 trackback



ほぼ夏場限定で会う古くからの友達。

それがまたたびくん。

通勤ルートの関係で、またたびくんとはほぼ夏場限定のお付き合いで、冬場が時間帯が悪いのか、またたびくんがあまり出歩かないのか、足跡以外あまり見ない。

またたびくんは街ネコだけど、あまりにも体格が良くって、飼い猫疑惑もあるねこ。

たぶん、「半ノラ」っていうタイプの暮らしをしているのだと思う。

またたびくんは、この街のとある小さな横丁に居て、晴れた暖かい朝には横丁をブラブラしている。

朝、その横丁を通りかかると小さなちょっと立派なビルと、小さなおんぼろなビルの間にある美味しそうな匂いのする暖かい牛丼屋さんのダクトの下でウトウトしている。

俺は朝のひと時をまたたびくんとぼんやりしながら過ごす。

またたびくんはそんな俺をボーっと見ながら、やっぱりウトウトしている。

またたびくんがどうしてまたたびくんなのかというと、いつも「またたび」って書いてあるお店のちょうちんの下でボーっとしているから。




またたびくんは一日のほとんどをこの小さな横丁界隈で過ごしているらしいけど、時折横丁にある蕎麦屋さんの厨房から駆け出してきたり、今は無くなっちゃったけど古い教会の駐車場からテクテク歩いてきたりしているので、結構アクティブな男なのかもしれない。

俺は時々昼間にこの横丁に来て、またたびくんとボーっとしたひと時を過ごすのが好きで、秋の頃は良く通った。

そんな時は大抵またたびくんは落ち葉の積もった草むらにあるコンクリートブロックの上で、空を眺めたり、落ち葉が落ちてくるのを眺めたり、カラスがピョンピョン歩いているのを眺めたりしながら過ごす。



またたびくんは時々俺をじーっと眺めたりする。

本人は意味などないのだろうけど、なんだかその視線はとっても意味ありげで見られている方はなんだか困ってしまう。

お前は俺になんて言いたいのかな?

お前は人間になんて言いたいのかな?

また、春になったら教えておくれよ。

名なしのサバ白のこと。

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback



忘れられないネコっていうのがいる。

俺にとって忘れることができないのはこの名なしのサバ白。

名なしサバ白との最初の出会いは3年前の秋。

真昼間、ビルとビルの間のくぼみにあるマンホールの上にサバ白は小さくなって座っていた。



まだ小さく身体もできていない子猫だ。

カメラを出して慎重に近づく。

ファインダーの中のサバ白を見て俺はギクリとした。

ファインダーの中で身を硬くしてこちらを見ているサバ白はまるでこの世の中を呪うような視線だった。

気を取り直して何枚かの写真を撮る。

次の瞬間、サバ白はすばやくフェンスの向こうに消えていった。

俺はその視線の鋭さにしばらく呆けたようになりなんだか良く分からないような気持ちでその場を後にした。


それから2年ほど経った秋、俺は名なしのサバ白と再会する事になる。


ある夜、街を歩いていると何処からともなくニャーニャーと鳴き声がする。

あたりを見回すと、鳴き声は通りのすぐ横のビルとビルの間の暗がりから聞こえてきた。

暗がりに目を凝らす。

そこにまだ若いサバ白のネコがうずくまっていた。



サバ白は通りを歩く酔客からエサをねだっていたのだろう。

近づくと油断のない鋭い視線でこちらを睨みつけながらニャーニャーと鳴き続けていた。

カメラを出しシャッターを切る。

言いようの無い気持ちがのど元を駆け上がる。

カシャ、カシャ、カシャ…。

その間もサバ白はニャーニャーと鳴き続ける。



奇妙な既視感を抱いたのは何枚目かのシャッターを切った時だった。

あれ?この視線、ここかで…。

そう思った刹那、サバ白はエサを与えずに写真を撮り続ける男から逃れるように闇に消えていった。

言いようの無い気持ちを吐き出すように溜息をついて俺は立ち上がった。

秋風が容赦なく吹きつける夜の街で持って行きようの無い気持ちを飲み込んで俺はその場を後にした。


その夜、俺は自室であの既視感の事を考えながらパソコンのフォルダーを手繰っていた。

正確に言うとある確信を持っていたのだが、まさか2年も経って、という思いもあった。

一般に寿命が短いと言われる街ネコ。

あの小さな身体で2つの冬を乗り越えているとは思えなかった。

カリカリとマウスのホイールを廻す手が止まった。

その写真の中で俺を睨みつけていたのは、やはり名なしのサバ白だった。

身体の模様も、目の間の特徴的な模様も一緒だ。

そこにいたのは2年前のあのマンホールの上でうずくまる名なしのサバ白だった。


よくぞ…。

それ以上の言葉が見つからない。

厳しい冬を乗り越え、小さな身体で生き抜いた名なしのサバ白。

人を拒絶しながらも、人に依存し、酔客の気まぐれな施しと、人の営みの残滓によってながらえた小さな命。


街は今日も飲み込み続ける。

人間の享楽と欲望を。

巨大な軟体動物のようにうごめきながら、

光と嬌声を吐き出し続ける。

光の数だけ暗闇は広がり、嬌声の数だけ沈黙は果てしない。

あだ花のように生きる街ネコが今日もこの街の暗がりで息を潜め、か細い鳴き声を出し続けているのだろう。

Jr.とにんじんの箱のこと。

Posted by steampump on   4 comments   0 trackback



前にも書いたかもしれないけど、Jr.はとても警戒心が強くって手の届く範囲に近づかせてくれた事がない。

幸いシャーっとやられた事はないけど、近づこうとすると脱兎のごとく逃げようとするし、逃げなくっても嫌がっているのが分かるのでとりあえずJr.というオトコとの付き合いは気を使うのだ。

ある日横丁ににんじんの箱が置かれた。

どうしてにんじんの箱が置かれたかというといつも奴等が寝泊まりしている発砲スチロール製の箱…ネコマンションって呼んでるけど、これが大雪で埋もれてしまって緊急避難的にこのにんじんの箱を誰かが置いてくれたんだ。

あくまで緊急避難的なものなので除雪が済むまでここで寝なさいよ的なものだったんだけど、ことのほか皆さんが気に入ってしまいおにぎりくんや猫耳くんや姉さんもこの中でひっついて寝る様になってしまった。

で、Jr.も当然のようにこの中がお気に入りになってしまって、いまや、アニキ以外の家族はここが本拠地になってしまったというワケ。

まあ、それは良いんだけど、このにんじんの箱…別荘って呼んでるけど、別荘が来たことによって急激に俺とJr.の距離感が縮まっていった。

これはきっと別荘という防御施設ができたことによってJr.は安心したんだと思う。

なので、俺がJr.の入っている別荘にある程度近づいてもJr.が脱兎のごとく逃げ出すという事はなくなった。

まあ、そうは言っても近づけばJr.は顎を引いて、それ以上近づくと箱から逃げるよって顔はするんだけど少なくとも物理的な距離は格段に縮まったということ。

つまり、猫に近づきたいなら箱を用意しろってことなんだな。

だからってにんじんじゃなければいけないって事はないんだろうけど。

コンビニのラオウのこと

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback



郊外のコンビニに立ち寄った。

そのコンビニは世界何処にでもあるコンビニで、もちろん日本の何処にでもあるコンビニだ。

そのありふれたコンビニで、俺はありふれた買い物をしにきた。

ありふれたコンビニには、ありふれた車がたくさん駐車されていて、お店の中もそこそこありふれた人たちが、立ち読みしたり、冷蔵庫を開けたりしめたり、おにぎりをとっかえひっかえ見たり、マイルドセブンを買ったり、トイレをタダで使ったり、溜まった車のゴミを大量に捨てたりしにきていた。


話は長くなったけど、そのコンビニの駐車場で出会ったのがラオウだ。

ラオウと俺は初対面だったし、そのコンビニにラオウがいるなんて知らなかったけど、ラオウはすでに何年もこのコンビニ(正確にはコンビニの駐車場)にいたかのようなたたずまいだった。


ラオウはとにかく大きい。

最近のネコはシュッとしたヤツが多いけど、ラオウは中型犬くらいの大きさがあった。

胴回りは大人のふとももくらいはゆうにあるだろう。

ラオウは顔がでかかい。

大抵のネコというものは顔の真ん中に鼻と口の出っぱりがあって、大まかなフォルムとしてはほぼ球形を呈しているものだ。

だがラオウは横幅が広く、例えて言うなら大人のオスのオランウータンのような形に見える。

ラオウは引くほどの怪我をしている。

尻尾は途中でちぎれたのだろう。

力なく垂れ下がっている。

腰を痛めているのか後ろ足を引きずっている。

そのせいか真っ直ぐ歩くこともできないのかナナメになって歩いていた。

だからといって動作が緩慢かというとそうでもなく、機敏に車を避け、走ったりもする。

ラオウは駐車場を悠々と歩き、あたりにいる人間を油断なく眺め、乾いた日向のアスファルトの上でゴロンゴロンと寝転がり、毛づくろいをし、顔を洗い、猛烈な覇気というか闘気というか、そういうものを撒き散らしながら、あたりを睥睨していた。

ラオウという名前は俺が勝手に付けただけだから、たぶんトラとがデカとか呼ばれているんだろうけどその満身創痍のオスネコはラオウ以外の何者でもないと思ったんだ。

ラオウと俺とはその時だけの付き合いだけどたぶんラオウも気に入ってくれるはずさ。

ヤツが本当のラオウならね。

名なしのクロヒゲさんのこと

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback



名なしのクロヒゲさんと会ったのは一回きり。

ビルの隙間の出っ張りの下にできた影に身を潜めるようにうずくまっていた。

身体は黒で、ヒゲが白。

たぶん尻尾の先も白だった。

クロヒゲさん寒風吹きすさぶ中、出っ張りの下にじっとしていたから普段なら気づかないところだけど、その場所には以前、やっぱり名なしのネコが潜んでいたことがあったので、その日も何気なしにそのあたりに視線を走らせていたら、潜んでいたクロヒゲさんと目が合ってしまった。

クロヒゲさんは通りに背を向けた形でじっとしているだけ。

こちらに薄黄色の目を向けてていて、その目はクルクルと夕暮れの街の光を反射していた。

初対面のネコに性急な行動はタブーなので、ゆっくりと、いかにも興味が無さそうなそぶりで近づいた。

クツが地面に擦れる音すら嫌うネコが多いので漫画のような抜き足差し足だ。

ゆっくりと息を止めてしゃがみこむ。

クロヒゲさんはこっちを油断なく看視し、こっちもクロヒゲさんから目を離さない。

何せクロヒゲさんは黒いから、走り出して暗い場所に行かれてしまったらゲームセットだ。

ところがクロヒゲさんは全くその場から動かない。

動かない相手にシャッターを切り続ける。

しかたがないのでカメラのアングルを上にしたり下にしたり、ズームしたりしながらカシャカシャと撮り続ける。

撮り続けるが、クロヒゲさんはやっぱり動かない。

足が痺れてくる。

息も苦しくなってくる。

でも、クロヒゲさんは動かない。

相変わらず目だけが夕暮れの光に反射してクルクル動いているだけだ。

もう限界。

意を決して立ち上がる。

はぁっと息を吐き夕空を一瞬見上げた。

視線を戻すとクロヒゲさんは元の場所から居なくなっていた。

それだけの出会い。

名なしのクロさんのこと

Posted by steampump on   2 comments   0 trackback



名なしのクロさんに会ったのは、この街のとある市場の裏にある小さな小さな小路に面したビルの隙間。

夕暮れが迫った足元の悪い小路を歩いていたら薄暗いビルの隙間、白い雪の上に影が動いたのが見えた。

見ると白い雪に耳がピョコピョコと見える。

ネコだ!

カメラを取り出し構えたが、ここからが長かった。

猫はその体勢のまま微動だにしない。

10分以上経っただろうか、こっちも諦めかけた頃それは姿を現した。


全身真っ黒。

白い雪の上をスルスルと滑らかに歩いてくる。

雪が映った目は透き通ったブルー。

綺麗なネコだ。



飼い猫だろうか?一瞬考えたがすぐに打ち消す。

この辺には民家は無い。

たぶんこの市場の人か近所のビルで働く人が懇意にしているネコなのだろう。

引き締まった体がとても綺麗な黒猫。



雪が途絶えた小さなマンホールの上で立ち止まる。

視線は油断なくこちらを見つめる。

静寂の中、シャッター音だけが響く。

俺はこの瞬間が大好きだ。

次の瞬間、黒猫は顔をそらし体を回す。



音もなく飛び上がり鉄製のフェンスを軽々と飛び越え雪の中を駆け出していった。



すばやい動きで後姿を捉えることさえできず黒猫は消えていった。

名なしのクロさん。

美しいネコだった。

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。