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名なしのサバ白のこと。

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忘れられないネコっていうのがいる。

俺にとって忘れることができないのはこの名なしのサバ白。

名なしサバ白との最初の出会いは3年前の秋。

真昼間、ビルとビルの間のくぼみにあるマンホールの上にサバ白は小さくなって座っていた。



まだ小さく身体もできていない子猫だ。

カメラを出して慎重に近づく。

ファインダーの中のサバ白を見て俺はギクリとした。

ファインダーの中で身を硬くしてこちらを見ているサバ白はまるでこの世の中を呪うような視線だった。

気を取り直して何枚かの写真を撮る。

次の瞬間、サバ白はすばやくフェンスの向こうに消えていった。

俺はその視線の鋭さにしばらく呆けたようになりなんだか良く分からないような気持ちでその場を後にした。


それから2年ほど経った秋、俺は名なしのサバ白と再会する事になる。


ある夜、街を歩いていると何処からともなくニャーニャーと鳴き声がする。

あたりを見回すと、鳴き声は通りのすぐ横のビルとビルの間の暗がりから聞こえてきた。

暗がりに目を凝らす。

そこにまだ若いサバ白のネコがうずくまっていた。



サバ白は通りを歩く酔客からエサをねだっていたのだろう。

近づくと油断のない鋭い視線でこちらを睨みつけながらニャーニャーと鳴き続けていた。

カメラを出しシャッターを切る。

言いようの無い気持ちがのど元を駆け上がる。

カシャ、カシャ、カシャ…。

その間もサバ白はニャーニャーと鳴き続ける。



奇妙な既視感を抱いたのは何枚目かのシャッターを切った時だった。

あれ?この視線、ここかで…。

そう思った刹那、サバ白はエサを与えずに写真を撮り続ける男から逃れるように闇に消えていった。

言いようの無い気持ちを吐き出すように溜息をついて俺は立ち上がった。

秋風が容赦なく吹きつける夜の街で持って行きようの無い気持ちを飲み込んで俺はその場を後にした。


その夜、俺は自室であの既視感の事を考えながらパソコンのフォルダーを手繰っていた。

正確に言うとある確信を持っていたのだが、まさか2年も経って、という思いもあった。

一般に寿命が短いと言われる街ネコ。

あの小さな身体で2つの冬を乗り越えているとは思えなかった。

カリカリとマウスのホイールを廻す手が止まった。

その写真の中で俺を睨みつけていたのは、やはり名なしのサバ白だった。

身体の模様も、目の間の特徴的な模様も一緒だ。

そこにいたのは2年前のあのマンホールの上でうずくまる名なしのサバ白だった。


よくぞ…。

それ以上の言葉が見つからない。

厳しい冬を乗り越え、小さな身体で生き抜いた名なしのサバ白。

人を拒絶しながらも、人に依存し、酔客の気まぐれな施しと、人の営みの残滓によってながらえた小さな命。


街は今日も飲み込み続ける。

人間の享楽と欲望を。

巨大な軟体動物のようにうごめきながら、

光と嬌声を吐き出し続ける。

光の数だけ暗闇は広がり、嬌声の数だけ沈黙は果てしない。

あだ花のように生きる街ネコが今日もこの街の暗がりで息を潜め、か細い鳴き声を出し続けているのだろう。

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コンビニのラオウのこと

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郊外のコンビニに立ち寄った。

そのコンビニは世界何処にでもあるコンビニで、もちろん日本の何処にでもあるコンビニだ。

そのありふれたコンビニで、俺はありふれた買い物をしにきた。

ありふれたコンビニには、ありふれた車がたくさん駐車されていて、お店の中もそこそこありふれた人たちが、立ち読みしたり、冷蔵庫を開けたりしめたり、おにぎりをとっかえひっかえ見たり、マイルドセブンを買ったり、トイレをタダで使ったり、溜まった車のゴミを大量に捨てたりしにきていた。


話は長くなったけど、そのコンビニの駐車場で出会ったのがラオウだ。

ラオウと俺は初対面だったし、そのコンビニにラオウがいるなんて知らなかったけど、ラオウはすでに何年もこのコンビニ(正確にはコンビニの駐車場)にいたかのようなたたずまいだった。


ラオウはとにかく大きい。

最近のネコはシュッとしたヤツが多いけど、ラオウは中型犬くらいの大きさがあった。

胴回りは大人のふとももくらいはゆうにあるだろう。

ラオウは顔がでかかい。

大抵のネコというものは顔の真ん中に鼻と口の出っぱりがあって、大まかなフォルムとしてはほぼ球形を呈しているものだ。

だがラオウは横幅が広く、例えて言うなら大人のオスのオランウータンのような形に見える。

ラオウは引くほどの怪我をしている。

尻尾は途中でちぎれたのだろう。

力なく垂れ下がっている。

腰を痛めているのか後ろ足を引きずっている。

そのせいか真っ直ぐ歩くこともできないのかナナメになって歩いていた。

だからといって動作が緩慢かというとそうでもなく、機敏に車を避け、走ったりもする。

ラオウは駐車場を悠々と歩き、あたりにいる人間を油断なく眺め、乾いた日向のアスファルトの上でゴロンゴロンと寝転がり、毛づくろいをし、顔を洗い、猛烈な覇気というか闘気というか、そういうものを撒き散らしながら、あたりを睥睨していた。

ラオウという名前は俺が勝手に付けただけだから、たぶんトラとがデカとか呼ばれているんだろうけどその満身創痍のオスネコはラオウ以外の何者でもないと思ったんだ。

ラオウと俺とはその時だけの付き合いだけどたぶんラオウも気に入ってくれるはずさ。

ヤツが本当のラオウならね。

名なしのクロヒゲさんのこと

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名なしのクロヒゲさんと会ったのは一回きり。

ビルの隙間の出っ張りの下にできた影に身を潜めるようにうずくまっていた。

身体は黒で、ヒゲが白。

たぶん尻尾の先も白だった。

クロヒゲさん寒風吹きすさぶ中、出っ張りの下にじっとしていたから普段なら気づかないところだけど、その場所には以前、やっぱり名なしのネコが潜んでいたことがあったので、その日も何気なしにそのあたりに視線を走らせていたら、潜んでいたクロヒゲさんと目が合ってしまった。

クロヒゲさんは通りに背を向けた形でじっとしているだけ。

こちらに薄黄色の目を向けてていて、その目はクルクルと夕暮れの街の光を反射していた。

初対面のネコに性急な行動はタブーなので、ゆっくりと、いかにも興味が無さそうなそぶりで近づいた。

クツが地面に擦れる音すら嫌うネコが多いので漫画のような抜き足差し足だ。

ゆっくりと息を止めてしゃがみこむ。

クロヒゲさんはこっちを油断なく看視し、こっちもクロヒゲさんから目を離さない。

何せクロヒゲさんは黒いから、走り出して暗い場所に行かれてしまったらゲームセットだ。

ところがクロヒゲさんは全くその場から動かない。

動かない相手にシャッターを切り続ける。

しかたがないのでカメラのアングルを上にしたり下にしたり、ズームしたりしながらカシャカシャと撮り続ける。

撮り続けるが、クロヒゲさんはやっぱり動かない。

足が痺れてくる。

息も苦しくなってくる。

でも、クロヒゲさんは動かない。

相変わらず目だけが夕暮れの光に反射してクルクル動いているだけだ。

もう限界。

意を決して立ち上がる。

はぁっと息を吐き夕空を一瞬見上げた。

視線を戻すとクロヒゲさんは元の場所から居なくなっていた。

それだけの出会い。

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